MRワクチン今のうち
- 2018/05/22(Tue) -
麻疹(はしか)の全国患者数は、昨日までに170人を超えました。お隣の福岡県でも17人出ています。
熊本ではまだ感染者は報告されていないようですが、予防のためにワクチンを接種する方が急増しています。
もちろん麻疹単独ワクチンはもう入手困難なので、MR(麻疹・風疹混合)ワクチンで代用しています。

4月21日から5月20日までの30日間に、当院でMRワクチンを接種した方は79人でした。
このうち定期接種のお子さんは、1期4人、2期20人。任意接種は、0歳・5歳・7歳各1人、成人52人でした。

4月というのは、MRワクチンの第2期定期接種の対象になったばかりの年長児が、接種に訪れる月です。
幸か不幸か、対象期限に近い3月の駆け込み接種に比べると、例年4月の接種者はそう多くはありません。
しかしさすがに今年は、2期を早めに接種しようという方が多く、これ自体は悪い傾向ではありません。

問題は、全国的に接種が増えているMRワクチンの品不足です。
当院では、この事態の中での第1期定期接種対象者へのワクチンを確保すべく、早めに手を打ってきました。
しかし今のペースで毎日接種を続けると、6月初旬にはワクチンがいったんなくなるかもしれません。
薬品卸によれば、ワクチンの流通が改善するのは6月だといますが、6月のいつ?、そこがすごく大事。

ワクチンの在庫が減れば、第1期接種対象者を最優先させるために、成人の接種をお断りすることになります。

いま、いちばん恐れていることは、熊本での麻疹発生ですね。これはもうしかし、時間の問題かもしれません。
麻疹を疑う患者さんの診療も大変だろうし、予防接種も殺到することでしょう。
ワクチンの接種歴が2回未満の方は、まだ熊本で流行していない今のうちにぜひ、接種をお願いします。
ただ、福岡の麻疹患者のうち、ワクチン接種歴が2回ある20代が4人もいることが、ちょっと気になります。

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麻疹対策の更なる徹底
- 2018/05/01(Tue) -
「麻しん対策の更なる徹底について(協力依頼)」という通達が、厚労省から出されています。
「更なる」という文言からも、今まで以上の、もっとツッコんだ対策が求められているようです。

厚労省のサイトには、「ゴールデンウィークにおける海外での感染症予防について」というページがあります。
以前ご紹介した、「蚊意外にキケンあり」のようなダジャレ満載のポスターがダウンロードできるページです。
いま修正するなら「蚊以外にキケンあり」でしょうか。麻疹は人から直接、空気感染する病気です。

昨年7月に厚労省が作成した「みんなで目指そう『麻しんがゼロ』」のポスターが、いま再登板しています。
「マジンガーZ」をメインキャラクター(?)にしたそのポスターを、当院でも慌てて2カ所に貼りました。

昨年あれほど大騒ぎしたのに、今年もまた流行しているのは、一定の年齢層の予防接種率が低いからです。
だからいま、30代や40代の成人が、MRワクチンの接種のために毎日のように来院されます。

麻疹の撲滅を目指して、MRワクチンの2回の定期接種(1歳と年長)が始まったのは、平成18年度でした。
平成20年からは、2回の接種を受けられなかった世代を救済すべく、中1と高3へも暫定接種が行われました。
この5年間の暫定措置を経て、理論上は、いま27歳以下の方はMRワクチンを2回接種しているはずです。

ところが、当時の高3への第4期の接種率は、あまり高くありませんでした。
その定期接種を逃した方と、28歳以上で麻疹の罹患歴のない方々がいま、麻疹感染のリスクが高い世代です。
その意味では、30代でも40代でもそれ以上でもリスクは同じ。ワクチンの接種が必要です。

現実的な問題は、ワクチンの任意接種料金が高いことです。
比較的安価な麻疹単独ワクチンの流通量がきわめて少なく、代用のMRワクチンだと約1万円かかります。
「麻しんがゼロ」の更なる徹底を目指すなら、風疹同様に、国か自治体の助成制度を立ち上げるべきです。

(補足)医学的には普通「麻疹」と書きますが、お役所文書は「麻しん」表記なのでそのままにしています。
(蛇足)風疹抗体価が低い方は、風疹予防の名目でMRワクチンの助成を受けられる可能性(裏技)があります。

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また麻疹の輸入と拡散
- 2018/04/14(Sat) -
「排除」されたはずの麻疹(はしか)ですが、今でもときどき集団発生します。今回も海外からの輸入です。

東南アジアで麻疹に感染して、日本に麻疹ウイルス持ち込んだ人が「発端者」となりました。
その方が沖縄を訪れ、医療機関で麻疹と診断されて隔離されるまでの3日間に、沖縄で感染が広がりました。
ちなみにその頃に私はたまたま沖縄に行ったのですが、十分な免疫を持っているのでまったく心配ありません。

さて、いま新たな問題は、沖縄旅行後に麻疹を発症した二次感染者の少年のケースです。まとめると、

(1)発端者(台湾人):東南アジア旅行後、3/14に台湾で発症(発熱)し、3/17〜19に沖縄を観光
(2)一次感染者(40人以上):発端者の宿泊先や発端者が訪れた商業施設で感染
(3)二次感染者(少年):3/28〜4/2に沖縄旅行し、4/6に発症、4/7に新幹線で移動、4/11に診断確定

どの感染者も、発症(発熱)してから特徴的な発疹が出るまでの数日間は、まさか自分が麻疹とは思いません。
だから最初のうちは、無理して登校したり出勤したり、コンサートに行ったり新幹線に乗ったりするのです。

麻疹は感染力がきわめて強いので、十分な免疫がないと、同じ部屋や同じ車両にいるだけで感染します。
少年と同じ新幹線に乗った人などが、来週頃に三次感染者として発症する可能性は、おおいにあります。

輸入麻疹からの集団発生を防ぐには、ワクチンの接種率を上げて、免疫の無い人間を減らすしかありません。

新年度が始まり、麻しん/風しん混合(MR)ワクチン第2期接種の対象は、今月年長さんになったお子さんです。
もうすでに接種を済ませた方もいる一方で、年度末になって慌てて接種をする方も多いのが現状です。
単純な啓蒙活動だけでなく、何かインセンティブをつけて接種を促す方法はないものでしょうかね。

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ノイエスを求めて
- 2018/04/06(Fri) -
東京国際フォーラムで開催されている日本外科学会学術集会に、日帰りで参加してきました。
今日は熊大名誉教授の満屋裕明先生の特別講演があったようですが、残念ながら聴きのがしました。
昨日は櫻井よしこ氏が、「教育が拓く未来」という講演をしたそうです。外科との関連性は不明です。

「外科学の新知見を求めて」というのが今回の学術集会のテーマです。
國土典宏会長は、この「新知見」に「ノイエス」という読み仮名をふっています。

思えば大学で研究をしていた頃、教授や指導医にいつも、「ノイエスはあるのか?」と言われていました。
研究というのは結局、ノイエス探しなわけで、学会もたいてい「新」や「未来」や「創造」がテーマです。

2年前の外科学会は、4月14日〜16日に開催されましたが、その真っ最中に、熊本地震が起きたんですね。
地震のために学会発表ができなかった会員は、のちに紙上発表という特別措置が講じられました。

学会の学術集会は一般に、多数の会員が一堂に会して、講演したり議論を戦わせたりするものです。
しかし今回の外科学会とか、先々週の循環器学会のような巨大な学会では、参加者と発表演題数が多すぎます。

今日の場合だと、大小37カ所のホールや会議室や展示会場で同時に、研究発表と質疑応答が行われました。
からだは一つしかないので、参加するフォーラムやセッションを、1カ所だけに絞り込まなければなりません。
とくに私の場合は学会場滞在時間も短かく、ごく一部のセッションをチラ見しただけでした。

顔見知りの先生にも何人か出会いましたが、互いに時間もないので、会釈してすれ違う程度で終わりました。
学会のもうひとつの楽しみ、旧知の方々との語らいと懇親会は、日帰り参加ではなかなか堪能できませんね。

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山中教授は関西人
- 2018/03/23(Fri) -
大阪で開催されている、日本循環器学会学術集会に参加してきました。
会長の、大阪大学心臓外科の澤芳樹教授は、昔は多少面識もあった方ですが、いまや雲の上の人です。
なにしろ、iPS細胞を用いた心筋細胞シートを使った研究で、いまや世界の最先端を独走しています。

そしてその心筋細胞シート用の細胞を提供しているのが、iPS細胞の生みの親、京都大学の山中伸弥教授です。
そのようなつながりがあって、今日の記念講演が行われたというわけです。

山中教授は、若い頃からこれまでの全研究経過を、きわめて興味深く、しかも面白く話してくれました。
そのあとで講演した桂文枝師匠にも負けないほどの、関西人らしいノリでした。こういう講演を聴きたかった。

ノーベル賞受賞後、これまでに何度も語られてきた一般向けの発言や記事とは、ひと味違いました。
医学研究者である山中教授が、同じ医学研究者に講演するので、その内容は実に詳細で興味深いものでした。

彼の最初の実験で、その結果がもくろみとは真逆になったことがきっかけで、研究にのめり込んだそうです。
次の実験で、また予想外の結果が出ると、そっちの方に興味が移る。しかもとことん追求する。そういう性格。
するとまた別の副産物が出る。こんどはそっちを探求する。どんどん興味がずれていく、より面白い方に。
悪く言えば移り気、良く言えば柔軟。気が付けばiPS細胞を発見していたと、ザッと言えばそうなりますか。

多分、天才的なひらめきがあるんでしょうね。面白いものを見逃さず、つかむ。そこが凡人とは違うのです。

「iPS細胞」の「 i 」だけ、なぜ小文字なのか。山中教授の口から、その理由があらためて明かされました。

もともとは、「ES細胞」と対等に「○S細胞」と命名したかった。でも目新しい「2文字」が見つからない。
最終的に「IPS細胞」にしたけど2文字っぽさを残そうと、「 I 」を小文字にして「iPS細胞」にしたとのこと。
Appleの「iPod」を意識したのは本当ですが、あくまで「 I 」の存在感を弱めるためだったんですね。

あるときAppleの幹部に「iPodのマネしてiPSにしたけど」と言ったら、「ええんちゃう?」と言われたとか。
そのくだりがなんとも、関西人。

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山中伸弥と桂文枝
- 2018/03/22(Thu) -
「日本循環器学会」の会員の方なら、タイトルを見てピンときたでしょう。
明日から3日間、大阪で開催される「日本循環器学会学術集会」に、初日の明日だけ、参加してきます。
休診日を利用した日帰り参加なので、始発で大阪に飛んで夕方帰熊するという強行軍です。

日本循環器学会の学術集会と言えば、私が最初に「参加」したのは、昭和59年の春でした。
学生アルバイトとして、スライド受付係をしただけなので、本来の意味での学会参加ではありません。

当時の学会発表では、35mmポジフィルムをケースにマウントした、「スライド」を使っていました。
これを10枚ほど装填した細長いホルダーを、プロジェクターの横から差し込んで、順次映写するのです。
現物を見たことない方には、何のことやらサッパリ想像もつかないでしょうね。

いまや、ほとんどの医学系学会の口演発表が、PCを使った映写になりました。
明日の学会も、WindowsのPowerPointを使ったプレゼンが原則で、原稿はUSBで持ち込むことになります。
Macで発表したければ、自分のMacと変換アダプタを持ち込んで、それを使って映写しなければなりません。

世の中、Macに冷たいのです。ひところは、医者の間でMacは結構なシェアを占めてたんですけどね。
いまやWindowsでの発表に限定している学会もあるので、日本循環器学会はまだ理解のある方なのでしょう。

さて、一般的に学会の内容は、「一般演題」と「特別講演」の2つに、ザックリ分けることができます。
前者は、多くの会員たちが研究の成果を数分単位で報告・発表し、活発な議論を戦わせるものです。
後者は、一流の研究者らが重要テーマをじっくり語るものであり、聴く価値がきわめて高いとも言えます。
明日は午前中に山中伸弥氏の「記念講演」と、午後には桂文枝による「特別講演」があるのが楽しみです。

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心房細動週間
- 2018/03/19(Mon) -
昨年も書いたように3月9日は「脈の日」、その日から始まる1週間(3/9〜15)は「心房細動週間」でした。
このことから、脈についての最も関心をもつべき疾患は「心房細動」だと言うこともできます。

心房細動とは、心房の電気的活動が細かく不規則になり、心房が震えるように収縮する(細動)状態です。
その不規則な興奮が心室に伝導する過程で、一定の制御がかかるので、心室までが細動することはありません。
しかし心室の拍動(心拍)は不規則となり、手首で触れる脈はひどく乱れています。

このように心房細動は、脈だけでほぼ診断がつきます。だから心房細動週間は、脈の日から始まるのでしょう。

心房細動では動悸や心機能低下も起きますが、最も重要なのは心房内での血液の「うっ滞(よどみ)」です。
血液というのは、よどむと凝固して血栓ができやすくなるのです。
左心房内にできた血栓が、左心室に入り、大動脈へ拍出され、どこかに流れていくと、血管に詰まります。
それが脳の血管に詰まった場合には、脳梗塞(脳塞栓)を起こしてしまいます。

このような、心臓が原因で起きる脳梗塞を「心原性脳塞栓」といい、脳梗塞全体の2,3割を占めます。
脳血管の動脈硬化が原因で脳内で血栓ができる「脳血栓」に比べて、心原性の方が血栓が大きいのが問題。
同じ脳梗塞でも、心原性の方がより広範囲の脳が障害されるので、重篤な後遺症が残りやすいのです。

ですから心房細動の治療では、不整脈を止めることよりも、心原性脳塞栓症を防ぐことが最重要となります。
まずは、脳を守るために抗凝固薬を飲む。その次に、可能なら脈そのものを落ち着ける治療が検討されます。

抗凝固薬は、以前は「ワーファリン」だけでしたが、最近は「NOAC」という種類の新薬もよく使われます。
ワーファリンは投与量の調節のためにたびたび採血が必要で、納豆厳禁となりますが、とても安価な薬です。
一方でNOACは、用量調節不要で納豆OKですが、半減期が短いので飲み忘れると大変。しかも高額な薬です。

いずれにしても、ほぼ無症状の方に一生飲んでもらう大事な薬なので、処方の際には丁寧な説明が不可欠です。
残念ながら世の中には、心房細動なのに無治療の方がとても多いそうです。皆さん、ときどき脈を診ましょう。

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A型インフルまた流行?
- 2018/03/18(Sun) -
熊本では昨日、去年よりも15日早く、桜の開花宣言が出ました。開花が早いのは全国的な傾向のようです。

真冬の寒さと春先の暖かさが開花を早めたのだと、気象予報士の方が説明していました。
休眠していた花の芽が、一定期間の真冬の寒さによって目覚め(休眠打破)、温かい春先に成長すると。

それにしてもこのところ、昼間はそこそこ暖かいのに、朝だけはひどく寒い日が多いですね。
朝晩の血圧記録のグラフが、ひどくギザギザしている(朝が高い)患者さんが、ここにきて増えています。

おまけに、終息していたかと思っていたインフルエンザがこの数日、また流行の兆しです。
今日1日だけでも、新規のインフルエンザ患者が8名来院。すべてA型でした。
もしも当院がインフルエンザの定点医療機関なら、過去1週間の報告数は優に警報レベルを超えますけどね。

昨年11月頃、A型が出始めたかと思ったらすぐB型も流行し、1月からはB型が主流になって、いまはA型。
いったいどうなってるのか、国立感染症研究所の「ウイルス分離・検出状況」を見て、謎が解けました。
年末のA型がほとんど「A(H1)pdm09」だったのに対して、今のA型は「A(H3)」に切り替わっています。
前者はいわゆる「新型(ブタインフルエンザ)」で、後者は昔からの「季節性(A香港型)」です。

こういう流行のしかたって、最近では珍しいパターンです。
前シーズンのA型はほぼすべてA(H3)だったし、その前はすべてA(H1)pdm09で、その前はA(H3)のみ。
1年毎に交互にA(H3)とA(H1)pdm09が流行してきたのに、今期は正月をまたいで両方が流行しているのです。
もしかするとA(H3)は、前に危惧(予言)したように、米国からの輸入かもしれません。

今シーズン、A型とB型の両方に罹るだけでなく、A型に2回罹る方も増えるかもしれませんね。ご用心を。

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スギ花粉症がピーク
- 2018/03/16(Fri) -
第10週(3/5〜3/11)の定点あたりインフルエンザ報告数は、第9週と比べると、さらに減っていました。
熊本市:10.96→7.04、熊本県:12.70→7.78と、熊本では警報レベルが解除される10以下となりました。
北日本ではまだ報告数が多いようですが、全国的にはようやく、流行が終息しそうです。

インフル流行期には、普通の風邪の方は受診を控える傾向があります。感染を警戒してのことでしょう。
しかし今週は、熱や上気道炎症状で来院される方が、インフルエンザではないケースが増えてきました。

そしてそれ以上に、スギ花粉症と思われる、くしゃみ・鼻水・鼻づまり・目の痒みで困ってる方がとても多い。

「花粉症のようですね」と私が告げると、
「えっ、私は花粉症じゃありませんよ」と否定する方がいます。
「では、今年から花粉症なのかもしれませんね」と説明すると、なおさら困惑されることになります。

花粉症は、アレルギー体質(素因)の方が、長い年月をかけて花粉を浴びることによって起きます。
体内に、花粉に対する十分な強さの抗体が出来て初めて、花粉症の症状が出始めめるわけです。
だからスギ花粉症が50代で始まっても、何の不思議もありません。ようやくその歳になったということです。

スギのほとんどは、戦後に植林されたものだといいます。
これからは花粉の少ないスギを植林する方法によって、遠い将来、スギ花粉症は激減するかもしれません。
しかし、今後しばらく(数十年?)は、スギ花粉の飛散量は増える一方だとも言われます。悲惨です。

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インフルとマスク
- 2018/03/04(Sun) -
日頃の診察中や検査中には、患者さんの咳のしぶきをモロに顔面に浴びることが、しばしばあります。
なのでインフルエンザの流行期に入って以来、診療中にはマスクを装着しています。
マスクをたびたび着脱すると、その操作によって不潔になりやすいので、マスクは常時つけっぱなしです。

もちろん、そのような状況で、ウイルス感染をマスクだけで予防できるとは考えていません。
頻繁に手洗いをします。顔や頭髪はたびたび洗うわけにもいきませんが、メガネは時々洗います。

しかし考えてみると、もう私の免疫は十分できていて、マスク等で予防することなど不要かもしれません。
この数カ月で、千人以上の患者さんからのウイルス曝露(咳・くしゃみ攻撃)を受けてきたはずだからです。

インフルエンザウイルスは、口や鼻から侵入すると、気道の粘膜細胞に感染しようとします。
すると、気道粘膜上に分泌されている「分泌型IgA抗体」が、まず最初の防御因子として働き始めます。

一方で、ワクチンの接種によって誘導されるのは、「IgG抗体」という、血液中の防御因子です。
IgG抗体はウイルス感染の最初の防波堤にはなり得ません。最前線で働くのは、あくまで分泌型IgA抗体です。

何度もウイルスを浴びてきた私の場合、この分泌型IgA抗体が、極めて発達した状態にあると考えられます。
だからもう、私は十分な免疫を獲得しているので、そろそろマスクをやめてもいい時期かと思うわけです。

それに「iPhone X」を使う時、いちいちマスクを外さないと「顔認証」ができないのも、ストレスなのです。

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がんを予防する自由
- 2018/02/28(Wed) -
HPVワクチンは、副反応を疑う事象が問題となって積極的勧奨が中止され、接種は実質的に止まっています。
このことについて、某医師系サイトが行った日米医師の意識調査の結果は、なかなか興味深いものでした。

「日本は接種を勧奨すべきだ」とする産婦人科医の割合は、日本の78%に対して、米国では意外にも57%。
一方で「接種者が個別に判断すればよい」とする産婦人科医の割合は、日本の14%に対して米国では41%。

つまり米国の医師は、ワクチンを接種するかどうかは国ではなく個人が決めることだ、という考えなんですね。
医学的な判断はどうあれ、最終的には個人の意思を尊重するというのが、いかにも米国的です。

ひるがえってわが国の、接種率がほぼゼロという現状は、はたして個人の意思によるものなのでしょうか。
全国民がそれぞれ自分の判断で、HPVワクチンを否定した結果なのでしょうか。
メディアの執拗なネガティブキャンペーンに惑わされ、思考停止に陥ってるのではないのでしょうか。

そのメディアが作った世論に負けて、大事なワクチンの接種を事実上停止させてしまうという、弱腰の厚労省。
しかし積極的には勧めないくせに定期接種のままにしておくのは、あとで言い逃れするためのずるい伏線です。

医学的根拠に乏しいとされるのに繰り返し放送された、あの少女の映像こそが、HPVワクチン問題の始まり。
ワクチンが予防しようとしている病魔の恐ろしさの方に国民の目を向けさせるためには、どうしたらいいのか。
がんを予防しようという気にさせる、効果的な方法はあるのでしょうか。

私は、子宮頸がんの統計、病状、手術シーン、摘出臓器など、あらゆる現実を、映像で流すべきだと思います。
ワクチンの副反応だとする映像にはいまだに議論がありますが、子宮頸がんの惨状に議論の余地はありません。
毎年3,000人が子宮頸がんで亡くなっているという現実から、目を背けてはなりません。

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感染症は感染する
- 2018/02/25(Sun) -
インフルエンザの定点当たり報告数が、大幅に減少しています。
第6→7週(2/12-18)の変化は、全国:45.38→29.65、熊本県:49.64→31.35、熊本市:38.24→26.80。
このペースだと第9週(明日からの週)には、警報レベル解除基準(1定点あたり10)まで減りそうです。

今シーズンは、A型とB型の両方に罹る方だけでなく、同じ型のインフルに2回罹った子にも遭遇しました。
さらに今日などは、今期3回目のインフルエンザ(A型2回、B型1回)と診断した方もいて驚きました。

インフルエンザに罹ったお子さんは、最も経過が良い場合でも、登校・登園ができるのは発症の6日後です。
このとき、いつが発症日なのか、その解釈がとても重要になりますが、それはしばしばアバウトです。
学校保健安全法を遵守して、登校・登園日を決めるわけですが、そこには「さじ加減」の余地もあるわけです。

急性胃腸炎(嘔吐・下痢)のお子さんがいつから登園できるかは、病状をみて決めることになります。
ノロやロタやアデノウイルス感染症のような、いわゆる「感染性腸炎」の場合は、とくに厳格に対処します。
一方で、原因不明の胃腸炎、たぶんウイルス性?、ぐらいの病状だと、もう少し緩い対応になります。

「胃腸炎ですね」と親御さんに説明すると、「感染性でしょうか」という質問をしばしば受けます。
「感染力の強い胃腸炎ではないと思いますが・・・感染性か感染性じゃないかで言えば、感染性です」
と応えると、親御さんはたいてい、ガッカリされます。まるで「伝染病」と言われたような反応です。

そんな時は、「おなかの風邪みたいなものです。風邪でも感染するでしょう?」と言って理解を求めます。
保育園や幼稚園が感染症に過敏になりすぎているので、親御さんに伝える病名には気を遣いますね。

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インフル中間総括
- 2018/02/19(Mon) -
インフルエンザの流行はそろそろ、終息です。第6週(2/5〜2/11)の定点当たり報告数を第5週と比べると、
全国:54.33→45.38、熊本県:55.06→49.64、熊本市:51.84→38.24と、明らかにピークを過ぎました。

幼稚園から検査するように言われたと来院する発熱者の、その半分はインフルエンザではなくなりました。
しかし、例年なら検査しないような軽症例でも、懇願されて検査したら陽性が出たりするので油断できません。

今年は「隠れインフル」が多いと報じられているため、軽症でも求められたら検査を断れない面があります。
職場から検査を求められて来院する、微熱の成人もいます。そして実際、調べてみたら陽性だったりします。

なかには、「高熱なのにインフルなんですか?」などとオカシナことを言う、B型インフルの方もいます。

嘔吐や下痢など、胃腸炎症状主体のインフルエンザが今年は多いことも、知れ渡っています。
「下痢をしたのでインフルだと思って来ました」などと言う、明らかに普通のウイルス性胃腸炎の方もいます。

インフルエンザの非典型的症状ばかりが報じられやすく、一般の方の目もそちらに向いてしまいがちです。
しかし、従来通り高熱でぐったりした、いかにもインフルエンザっぽい方も多いのです。
B型でそのような重症例はたいてい、これまでにインフルエンザに罹ったことがない、と言う方です。
正確な集計はできませんでしたが、やはりワクチン未接種の場合、インフルエンザに罹りやすいようです。

来年こそは、ワクチン接種とインフル罹患との関係を統計学的に解析して(報告して)みたいものです。

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先駆けインフル薬
- 2018/02/08(Thu) -
大流行中のインフルエンザに関連して、明るい話題と言えば、新しい治療薬「ゾフルーザ」の登場でしょう。

タミフルなどの抗インフルエンザ薬は、細胞内で増殖したウイルスが細胞外に出るのをブロックする薬です。
一方でゾフルーザは、ウイルスが細胞内で増殖するのを、その初期段階で食い止めます。
単独では増殖できないインフルエンザウイルスが人の細胞内の「道具」を利用するのを、ブロックするのです。

増殖したウイルスを細胞内に閉じ込めるタミフルに対して、ゾフルーザはウイルスを増殖させない薬です。
その作用機序の違いによって、タミフルよりもウイルスを早く減らす効果があると期待されています。

先週厚労省の部会の審査で了承されたので、3月には承認され、5月ごろまでには発売される見込みです。
もしかすると、現流行シーズンの終わり頃には、処方ができるかもしれません。

ゾフルーザは、厚労省が優先的に審査する「先駆け審査制度」の対象品目として指定されていました。
画期的新薬を世界に先駆けて承認する「先駆け薬」としての指定要件をおおざっぱに言えば、次の4つ。
(1)画期性:新しく画期的な作用機序であること
(2)重篤性:生命に重大な影響がある疾患の治療薬であること
(3)有効性:既存薬に比べて有効性が高いと見込まれること
(4)日本製:世界に先駆けて日本で開発・申請されたこと

急いで導入するのはいいけど、もしも重篤な副作用が出たら、マスコミの格好の餌食になるでしょうね。
そのような場合でも、厚労省におかれましては、おかしな処方制限などを付けたりしないでいただきたい。
日本発の新薬が、日本以外の国だけで評価されるようなことのないように、お願いします。

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インフルは今がピーク
- 2018/02/02(Fri) -
インフルエンザの流行は、少なくとも熊本においては、ピークを過ぎつつあります。
本日発表された第4週(1/22〜28)の報告数は、熊本市も熊本県も、第3週よりも少し減っています。
ただし全国的には、第3週とほぼ同数(微増)だったので、いまがちょうどピークなのでしょう。

インフルエンザの治療薬として有名な「タミフル」は、日本で処方されるようになってから、まだ17年です。
それ以前の、20世紀のインフルエンザは、タミフルなしで治療していたわけです。

よく言われるように、抗インフルエンザ薬の効果など、「半日から1日早く治る」程度のものかもしれません。
しかし、熱などの症状による苦痛や周囲への感染期間も短縮するわけで、それなりの意味はあるでしょう。
早く治れば、そのぶん早く登園・登校・出勤が出来るわけで、社会的な利益も(少しは)あるかもしれません。

日本は、全世界のタミフルの75%を消費しているといわれます(正確なデータは見つかりませんでしたが)。

すぐタミフルを飲むので、内服後のタイミングで、インフルエンザによる異常行動が起きやすくなります。
で、タミフルが異常行動の原因かと恐れるわけですが、インフルエンザに罹ると結局タミフルを飲むのです。
予防的に飲みたいので処方して欲しいという方も、少なくありません。ていうか、多いです。

ワクチンの副反応を極度に気にする日本人が、タミフルなら積極的に飲むというのが、じつに不思議ですね。
まずは、ワクチンをしっかり接種して、なるべくタミフルの世話にならないようにすることでしょう。

ちなみにタミフルは、中華料理でも使われる「八角」を原料として作られていたことは、前にも書いた通り。
現在は八角を使わずに製造されているようで、いま八角といえば「八角理事長」ですかね。

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軽症インフルが多い理由
- 2018/01/31(Wed) -
インフルエンザの流行は、いまだにとどまる気配がありません。今日も新規の罹患者が何人も来院しました。
しかし一方で、ワクチンの接種を受ける方も、まだいます。でもそれは正解。正しい対処法だと思います。

ワクチンに含まれる4つの型のうち3つが同時に流行している現状では、ワクチンの接種はとても有用です。
ただし当院のワクチン在庫もあとわずかなので、今週中には接種を終了することになるでしょう。

「今年のインフルエンザは症状が軽い」なんて、よく聞きますね。いわゆる「隠れインフル」です。
でも本当に、今年だけの特徴なのでしょうか。
去年までは、症状の軽い人は検査しなかったので、軽症のインフルに気付かなかっただけかもしれません。

今年はA型とB型の同時流行やワクチン不足などによって、過去最大級のインフルエンザ流行が起きています。
学校や家庭など、自分の周辺がインフルだらけなので、軽症でも「念のため」検査するケースが増えています。
その結果、例年よりも軽症のインフルが、たまたま見つかっている。そう考えることはできないでしょうか。

いまの隠れインフルの実体は、ここ数年いつも春先に流行している、B型(山形系統)と思われます。
そのうち軽症例が、昨シーズンまでは見逃されていたとすれば、それこそが正真正銘の、隠れインフルです。
今シーズンはそのB型インフル軽症例を、隠れさせず顕在化させただけなのかもしれません。

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インフル激しく流行中
- 2018/01/26(Fri) -
インフルエンザの話ばかり書きたくはないのですが、なにしろ過去最多患者数だと報じられているので。

今年第3週(1/15-21)の定点当たり患者数は、熊本市で68.00、熊本県で66.26と、いずれも先週の2倍。
これは、例年第4週ごろに記録する年間のピーク値と比べても、約2倍です。
患者数の流行カーブはまだ上昇中なので、ヘタをすると、過去最悪の流行になるかもしれません。

このような、近年まれに見るインフルエンザ流行の原因は何でしょう。
特殊なウイルスが出ているわけではないし、衛生環境の悪化や異常気象が原因とも思えません。

混合流行(A型とB型の同時流行)が、いまの大流行の原因だと、国立感染症研究所の方が説明していました。
それもあるでしょうけど、いまA型はむしろ沈静化しており、B型が単独で大流行しているような印象です。

今期のB型には、症状が比較的軽い、いわゆる「隠れインフル」が多いのも、感染拡大の原因かもしれません。

インフルエンザワクチンは、2年前から4価になったので、とくにB型に対しては予防効果が強まったはず。
それなのにB型が大流行しているのは、ワクチンの接種率の低下が原因ではないかと考えずにはおれません。

今期のワクチン不足がインフルエンザの大流行を招いたのだとしたら、厚労省はおおいに反省すべきです。
来シーズンは絶対に、同じ轍を踏まないように。

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米国もインフル大流行
- 2018/01/24(Wed) -
毎日毎日、インフルエンザに罹った方(またはその疑いのある方)が押し寄せてきます。
今年第2週(1/8〜1/14)時点で、熊本県および市は、インフルエンザが警報レベルを超えたと発表しました。
県内に80(うち市内に25)ある定点医療機関あたりの患者報告数が、1週間で30を超えたということです。

土日祝日診療を行っているためか、当院単独では12月下旬時点ですでに、「警報レベル」並の患者数です。

先日まとめた通り、12月に流行したのは、A型7割、B型3割というのが、全国的な傾向でした。
ところが年末頃からB型が増え始め、今月は圧倒的にB型。この1週間では、約9割がB型という印象です。

「B型は比較的軽症なので『隠れインフル』に注意しよう」などと、テレビ番組の特集でも言っていました。
B型すべが軽症とは限りませんが、たしかに今月は、熱の高くないB型が目立ちます。

例年、B型はA型よりも2カ月程度遅れて流行が始まりますが、今シーズンはほぼ、同時スタートです。
今年に入ってB型ばかり目立ち、逆に言えばA型が早々に沈静化した理由は、よく分かりません。

ところがそのA型インフルエンザが、米国でいま近年まれに見る規模で流行しているそうです。
気になるのは、そのほとんどがA(H3)(いわゆるA香港型)だということ。ワクチンの効きにくい型です。

先月日本で流行したA型は、ほとんどがA(H1)pdm09(いわゆる新型)でした。ワクチンが効くやつです。
つまり、もしも今後、米国からA(H3)が入ってきたら、日本ではまたA型が流行する恐れがあるわけです。
例年よりも早く流行が始まった今シーズンですが、場合によっては、例年よりも長引くかもしれませんね。

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異常行動の誤解
- 2018/01/21(Sun) -
タミフルって、不運な薬だとつくづく思います。
インフルエンザ罹患に伴う異常行動の原因であると、いまだに濡れ衣を着せられているからです。

異常行動の主な原因はタミフルではなくインフルエンザそのものだと、私は日頃の経験からよく知っています。
今日も、それを裏付けるような2つの症例に出くわしました。

(1)昨夜から熱が出て、意味不明のことを話し続けていたという男児
検査でB型インフルエンザ陽性。「インフルエンザのせいで異常行動が出たようですね」と強調しておきます。
さらに「異常行動を防ぐためにも、早くインフルエンザを治しましょう」と説明してタミフルを処方。

タミフル内服前から異常行動が出ていたことを、親御さんにはしっかりと覚えておいていただきます。

(2)昨夜わけもなくグルグルと家の中を徘徊していたという男児
昨日はインフルエンザ陰性だったので、タミフルは処方せずに経過観察してたら、その晩に異常行動が出現。
今日再検査したら、B型インフルエンザ陽性。「インフルエンザの異常行動が出たようですね」と説明。
もしも昨日、見切り発車してタミフルを処方していたら、内服の直後に異常行動が出ていたかもしれません。

タミフルで異常行動が出るのではなく、異常行動が出るタイミングでタミフルを飲ませることが多いのです。

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インフル情報まとめ
- 2018/01/16(Tue) -
インフルエンザは全国で、とくに西日本で、なかでも九州で、大流行しています。
当院でも初診だけで毎日10人から20人、多い日は再診も含めると50人以上がインフルエンザの患者さんです。
そこで今日は、日頃の診療で患者さんからよく聞く質問や誤解について、まとめておきます。

「マスクは意味ないとテレビで言ってたが、どうなの?」
私は使っています。いつも患者さんの咳を浴びているからです。たびたび手洗いもします。これも大事です。
一般の方は、少なくともインフルエンザに罹った本人は、感染拡大を防ぐためにマスクを装着しましょう。

「38度を超えなかったので、インフルエンザじゃないと思ってました」
私の印象として、インフルエンザの方の2,3割は、熱が38度を超えません。1割ぐらいは37.5度も超えません。
すぐ下熱して元気なので、受診せず登園・登校したお子さんの中には、インフルエンザの方もいるでしょうね。

「B型は軽いと思ってたのですが」
ほぼ、都市伝説です。熱の高さや倦怠感の強さは、A型かB型かよりも、個人差の方がよほど大きいようです。
とくに今年は、B型に胃腸症状(嘔吐・下痢)を伴うケースが目に付きます。結膜炎や中耳炎も見かけます。

「先月A型に罹ったのですが、こんどはB型に罹ることもあるのですか?」
12月のデータでは、ざっとA(H1)pdm09が6割、A(H3)(いわゆるA香港型)が1割、B(山形系)が3割でした。
A型とB型が拮抗している今期は、その両方に罹る可能性があります。とくに今月はB型が増えてますね。

「いまからワクチンを打っても、もう間に合わないでしょう?」
間に合います。すぐ接種しましょう。すでにA型かB型の一方に罹った方でも、まだ接種する意味はあります。
ワクチンの効きにくいA(H3)の割合が少ないので、今年は予防接種の効果は高いと思います。

今シーズンは、ワクチン不足のせいで未接種の方が多いのが問題です。早い流行と関係があるかもしれません。

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睡眠薬と夢
- 2017/12/05(Tue) -
医学賞のひとつ「ベルツ賞」は、「睡眠制御とその障害の研究」により、筑波大の柳沢教授が受賞しました。
柳沢氏は、人間はなぜ眠くなりどうやって覚醒するのか、その分子機構を究明しました。

これまでの人生で私は、不眠で悩んだことがありません。悩みで眠れなかったことなら、何度もありますが。

脳の興奮を抑え込む「GABA受容体作動薬」が、これまでの睡眠薬の主流でした。もちろん今でも主流です。
ところが最近、まったく作用機序の異なる睡眠薬が、2つ登場しました。

夜になると眠気を催し、朝になると目が覚めるのは、メラトニンというホルモンの働きによるものです。
7年前に発売された「メラトニン受容体作動薬」は、この概日リズムのずれ補正しようという睡眠薬です。
夜型生活等でリズムが乱れた体を、徐々に正常化していく薬と考えてもよいでしょう。商品名は『ロゼレム』。

脳の覚醒を保持する働きをしているオレキシンという脳内物質を、冒頭に紹介した柳沢氏が発見しました。
3年前に発売された「オレキシン受容体拮抗薬」は、脳の覚醒をブロックして眠気スイッチを入れる薬です。
夜に目が冴えて眠くならない人には、この作用機序の薬がうってつけでしょう。商品名は『ベルソムラ』。

という具合に、理想的にも思える睡眠薬が次々に発売されたのですが、その効果には個人差が大きいのです。
よく効いた方は喜んでくれますが、作用が弱いとか、副作用を嫌って服用を中止する方も少なくありません。

ロゼレムやベルソムラを飲んで、怖い夢を見たとか、変な夢を見たという人がときどきいます。
他の睡眠薬や禁煙補助薬などでもあり得る副作用ですが、ロゼレムやベルソムラで、わりとよく聞きますす。
睡眠が改善して、夢をよく見るようになっただけかもしれません。夢好きの私としては、興味ある副作用です。

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抗生剤使用法の反省
- 2017/08/30(Wed) -
「安易に抗生剤を処方しない」「普通の風邪に抗生剤は効かない
このことは当ブログにも何度か書いてきました。しかし最近、あらためて反省させられる出来事がありました。

他院の先生から、当院を含めた医療機関における抗生剤の使い方への、疑問の声を頂戴したのです。
そのことを、当院かかりつけの患者さんが、匿名の手紙で知らせてくれました。ありがたいことです。

安易な抗生剤の使用がもたらす耐性菌の増加という弊害は、感染症治療においてきわめて憂慮すべき問題です。
抗生剤使用の是非は、病状経過を慎重に観察し、血液検査やその他の検査を踏まえて判断するのが本来です。
とくに、小児用としては最強の抗生剤オゼックスは、その安易な使用は厳に慎むべき薬です。

しかしながら、目の前の患者さんの病状によっては、やや見切り発車的に抗生剤を選択するケースもあります。
前にも書いたように、従来からマイコプラズマ肺炎によく使う抗生剤が、今年はほとんど効きませんでした。
そんな時、切り札としてオゼックスに切り替えたところ劇的に著効したケースを、何度も経験しました。

やがて、しつこい咳と高熱が続いたら、ついつい最初からオゼックスを選択するようになったかもしれません。
このような処方のやり方は、科学的ではありません。おおいに反省しなければなりません。

そこで今後は、以前よりも我慢強く病状経過を観察し、必要な検査があれば繰り返し行う方針としました。
抗生剤を処方する場合にも、耐性菌を考慮した薬剤選択を意識しなければなりません。

開業しておよそ10年になりますが、順調な経過よりも、手こずった患者さんの記憶の方が強く残っています。
早く抗生剤を出しとけばよかったと、後悔したケースも多数あります。
病態を正しく判断して適切な抗生剤を良いタイミングで使うということが、実はとても難しいのです。

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真夏にRSウイルス感染
- 2017/08/19(Sat) -
寒くなってから出てくる「RSウイルス感染症」が、真夏のいま流行しています。当院でも最近目立ちます。

高熱、ひどい咳、ゼーゼーいう、ぐったり、2歳未満、このうちいくつかに該当すれば疑いは強いです。
顔色が悪く、お腹がへこむような呼吸をして、身近にRSウイルス感染者がいたともなれば、ほぼ確実です。

必要に応じて吸入や点滴を行い、風邪薬に気管支拡張剤や抗アレルギー薬も加えて処方します。
チアノーゼや喘鳴が吸入で改善しない赤ちゃんは、病院を受診してもらうことになります。
そのような重症例では、確定診断のために鼻腔ぬぐい液を採取して、迅速検査を行う場合があります。

逆にそれほど重症でもないお子さんでは、RSウイルス感染かどうかの検査は必要ありません。
RSウイルス感染であろうとなかろうと、治療方針には何の違いもないからです。

ところが、「保育園で検査するように言われたので、検査して欲しい」という方がとても多くて困ります。
明らかにRSウイルス感染症ではなさそうな方まで、「念のため」検査を希望するのです。

残念ながら、RSウイルスの検査が保険適応となるのは、外来診療においては原則として0歳児だけです。
1歳以上の方にこの検査を行うと、保険がきかないので、自由診療となります。
保険診療と自由診療を併用することを混合診療といい、混合診療は原則として禁じられています。
どうしてもRSウイルスの検査をするなら、一連の診療はすべて自由診療とみなされ、全額自費になります。
「そこまでして検査する必要はないと思いますよ、治療内容は同じですから」というのが私の説明です。

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それ、弁膜症かも
- 2017/07/09(Sun) -
最近テレビを見てて思わず吹き出したのが、ACジャパンの支援キャンペーンの、「日本心臓財団」のやつ。
「心臓弁膜症」について啓蒙する、コントのようなCMです。見てない方はぜひ、ネットでご覧ください。

登場人物は、上杉謙信と武田信玄。声の出演はサンドウィッチマン。
「息切れするし、もう年だわ」と嘆く謙信に、「弁膜症のせいかもよ」と信玄。
「ちょっと何言ってんのか、わかんないけど」という謙信の反応は、富澤たけしのお決まりのセリフですね。

たしかに「弁膜症」という聞き慣れない病名の登場が唐突なので、視聴者も「何それ?」ってなりそうです。
まあそのような疑問を抱かせることができれば、このCMも成功したと言えるのかもしれません。

ただしCMには時間が足りなくて、「弁膜症」自体の説明がほとんど、ていうかまったくありません。
結局言ってることは、「息切れが気になったら病院へ」ということ。
最後に、信玄が「高齢者に進言を!」、謙信が「早めに検診を!」というダジャレで締めくくります。

今でこそ、心臓病の代表と言えば、狭心症・心筋梗塞のような虚血性心臓病。次が不整脈かもしれません。
しかし弁膜症も意外に少なくはなく、息切れの原因は弁膜症かもしれませんよと、CMが訴えるわけです。

私が研修医の頃は、「心臓弁膜症」と「先天性心臓病」が、二大心臓病とも言えるものでした。
そのころの心臓手術症例のほとんどが、このいずれかでしたが、とくに多かったのは弁膜症でした。

しかも心臓弁膜症のほとんどが「リウマチ性心臓病」で、その多くが「僧帽弁膜症」でした。
若い医師の方には想像もつかないでしょうけど、昭和の時代はリウマチ性心臓病がとても多かったのです。

そのリウマチ性心臓病の原因は、溶連菌感染症です。いまでも日常的によく遭遇する、子どもの病気です。
今日1日だけでも、新患4人、再診7人の、溶連菌感染症の患者さんが来院しました。それほど多いのです。

さいわい、いまは有効な抗生剤治療があるので、溶連菌感染者が将来弁膜症になる可能性は低いでしょう。
ACジャパンが啓蒙している弁膜症は、実際のところリウマチ性以外のものが多いかもしれません。
でも私は弁膜症と聞くと、リウマチ性の僧帽弁膜症の、再手術・再々手術で苦労した時代を思い出すのです。

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夏のノド風邪
- 2017/05/20(Sat) -
インフルエンザが、いまだに出ています。そこそこ流行している学校もあるようで、驚きます。
しかし一方では、夏っぽい感染症も流行し始めました。ノドに来て高熱が出るものが多いようです。

最近とくに多いのが、「アデノウイルス感染」。
のどの奥や扁桃腺が赤く腫れます。高熱が続く割に元気。結膜炎を伴えば「咽頭結膜熱(プール熱)」です。
塩素消毒が不十分なプールでうつりやすいから、この病名が付いていますが、別の経路での感染が多い。

この1,2カ月コンスタントに出ているのが、「溶連菌感染」。
のどの手前側が燃えるように赤く、一目で診断が付く場合もあります。抗生剤をみっちり飲んでもらいます。
お腹や下肢などに赤いザラザラの発疹が出て、念のためのどを調べたら溶連菌が出るケースもあります。

今週急に増えてきたのが、「手足口病」。
のどや舌や手足にブツブツができます。熱は最初だけのことが多く、いつから登園できるのかでもめます。
規定では、本人が元気なら登園・登校できることになっていますが、感染力はしばらく続きます。

そのうち流行すること間違いなしなのが、「ヘルパンギーナ」。
のどの発疹がひどく痛み、高熱が続き、水分も摂れない重症例には点滴が必要です。
あとで手足に発疹が出て、じつは手足口病でした、てこともあるので、手足口病の可能性にも触れておきます。

読売テレビの道浦俊彦氏が、手足口病のアクセントについて、最近のブログに書いていました。
NHKの新辞典では「テ\アシ・ク/チビョー」であり、「ミヤネ屋」でもそのように発音したようです。
しかし、医療従事者はたいてい、「テ/アシ・クチビョー」と、平板型発音をしています。
名詞の平板化は、業界人から始まることが多く、手足口病もきっとそうなるのです。

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がん犬診
- 2017/05/14(Sun) -
「においで『がん犬診』」 という時事通信のニュースの見出しに、座布団一枚。
患者の尿のニオイによってがんを発見するという、探知犬による判別率はほぼ100%とのこと。
この件は少し前から話題にはなっていましたが、「がん犬診」という言葉は、思いつきませんでした。

ならば、もうひとつの話題、線虫でがんを見つけるニュースは、どんな見出しが面白いか、考えてみました。
思いつきませんでした。

線虫も、患者の尿の微妙なニオイを嗅ぎ分けてがんを発見するわけで、原理は「犬診」と同じです。
その線虫の能力を見いだした、「アニサキス」がヒントになったエピソードについては、前に書きました。

最近では、芸(能)人が食中毒被害にあって話題にもなっている、例の寄生虫・アニサキスのことです。
アニサキスによる激しい胃痛の患者は、胃カメラで除去して治療します。
ある医師が患者を胃カメラを覗いたら、アニサキスが患者の胃がんに食らいついていたと、そういう話です。
面白すぎてウソっぽいのですが、どうやら実話のようです。

では、犬ががんを探知できることは、どのようなキッカケで発見されたのか。これにも有名な逸話があります。
飼い主の足のホクロを、犬がしつこく嗅いだり噛んだりするため、皮膚科を受診したらメラノーマだったと。
尿で膀胱がんや前立腺がん、呼気で肺がんや乳がんや卵巣がんを、犬が発見したという実験報告もあります。

では、私の手足をいつも噛みまくる、わが家の愛犬・花は、いったい私の何を発見してくれているのか。

(蛇足)
あとで思いつきました、線虫でがんを見つけるニュースの見出し。
「がんを見つけてくれて、センチュー・ベリーマッチ」
すいません。座布団全部、持ってってください。

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立位・座位CT
- 2017/05/12(Fri) -
医療機器における最近の話題は、慶応大学と東芝メディカルが共同開発した、「立位・座位CT」でしょうか。
立ったまま、あるいはイスに座った状態での全身の断層撮影ができる、世界初のX線CT装置です。
荷重がかかった状態での運動器や、立位での腹部や胸部などの評価が可能になるというメリットがあります。

私が研修医の頃のCTは、何分間もかけてやっと1断面が撮影できるようなシロモノでした。
それがわずか0.275秒で、1度に320断面が撮れる装置まで開発されたと書いたのが、数年前のこと。

おそらく今後は、単純に時間の短縮とか解像度の進歩だけでなく、もっと画期的な技術革新が起きるはず。
立位・座位なんてものじゃない、歩行中に一瞬で全身スキャンできるような、そんなことになるでしょう。

経営不振の東芝グループの中にあって、東芝メディカルは有望な部門でしたが、泣く泣く手放した子会社です。
不採算だから切り離したのではなく、優良物件だからこそ売りに出したわけです。

昨年、キヤノンの傘下に入り東芝グループからは離脱していますが、社名はまだ、東芝メディカルです。
キヤノングループなのに、東芝メディカルとはこれいかに。

当初は、ソニーが東芝メディカルを買収するのではないかと噂されていました。
ソニー傘下に入ったとしても、東芝メディカルを名乗り続けたのでしょうかね。

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春インフル
- 2017/04/28(Fri) -
この時期にもまだ、インフルエンザが散発しています。
つい先週、埼玉県の高校で全校生徒の1割強に相当する101人が欠席し、学校閉鎖になったと報じられました。
埼玉だけではありません。熊本でも益城町の中学校で先週、学年閉鎖が起きているようです。

当院の受診者では、インフルエンザの方はだいぶ減りましたが、このまま終息という保証はありません。

このような時期のインフルエンザには、「春インフル」という呼び名が付けられているようです。
「春だというのに、今年はまだインフルエンザが出てますね」などという言葉が、しばしば聞かれます。

でも、本当にそうでしょうか。今年は流行が異常に長引いているのでしょうか。
調べてみたらちょうど4年前にも当ブログで、「一部地域ではインフルエンザが流行中」などと書いています。

この時期にインフルエンザが出ると、「春なのにインフルエンザ?」と、毎年思うだけなのかもしれません。
国立感染症研究所のサイトで過去10年間の流行グラフを見ると、今シーズンはまったく例年通りのようです。

と思っていたのですが、厚労省のサイトで全国の学校のインフルエンザ情報を見て驚きました。
先週(4/17ー4/23)は、全国で11校が休校し、学年閉鎖は146校、学級閉鎖は353校で実施されています。

いまだに流行が続いているのか、と驚くのはまだ早い。むしろ学校での流行は、いま増えつつあります。
先々週(4/10ー4/16)は、休校3、学年閉鎖35、学級閉鎖46校だったからです。

新学期が始まって、子どもたちの集団生活が再開され、流行が拡大しやすくなったということなのでしょうか。
この大型連休で、学校は休みになりますが、行楽地等では人間が密集します。さて流行はどうなるか。

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麻疹の輸入と集団発生
- 2017/04/17(Mon) -
麻疹の排除」を2年前にやっとWHOに認めてもらえた日本ですが、今年も麻疹の集団発生が起きています。

今年第1〜13週に報告された99例の麻疹のうち68例が、山形・東京・三重・広島の4都県で発生しています。
とくに問題は、海外からの輸入による集団感染です。山形のケースは、バリ島から帰国した方が発端者でした。

このように、国内の土着の麻疹ウイルスは排除できても、近隣諸国からウイルスが持ち込まれてしまうのです。
天然痘のように地球上から病原体を完全に撲滅しない限り、国境をまたいだ感染は防ぎきれません。

いつかブタインフルエンザが流行した時、空港での「水際作戦」が敢行されたことを思い出します。
あの手法では、すでに発症(発熱)した入国者は見つかっても、潜伏期の感染者はスルーしてしまいます。

まして麻疹の潜伏期は10〜12日と長いので、10日以内の旅行であれば、発症は必ず帰国後になります。
その方がやがて発熱しても、当初は風邪との区別もつかず、そうこうしているうちに周囲に感染を広げます。

まずは、海外に渡航しようとする者は、必要に応じて事前にワクチンを接種しなければなりません。

たとえウイルスが輸入されても、地域の大多数の住民が麻疹の免疫をもっていれば、集団感染は起きません。
ウイルスを持ち込んで国内で発症した人が治癒すれば、それで感染源は消えます。
ところが、ワクチン未接種等の理由で、免疫をもっていない人(感受性者)が多数いると、感染が広がります。

国内の麻疹発生が限りなくゼロになっても、MRワクチンの定期接種を続ける必要があるのは、そのためです。
ほとんど流行してないから、自分はワクチンを接種しなくてもいいだろう、なんていう考えは最悪なのです。
現にポリオではそのように思っている方もいますが、もしも海外から持ち込まれたら、それこそ一大事です。

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乳児ボツリヌス症
- 2017/04/08(Sat) -
生後6カ月の赤ちゃんが、ハチミツを食べて「乳児ボツリヌス症」を発症し、死亡しました。

問題のひとつは、「乳児にハチミツを与えてはいけない」ということが、いまの日本人の常識かどうか、です。
(1)常識、(2)なんとなく、(3)聞いたことない

ボツリヌス菌の感染による症状は、菌が産生する毒素「ボツリヌス毒素」によって引き起こされます。

たいていは、食品の中で菌が増殖して多量の毒素を産生し、それを毒素ごと食べて発症する食中毒です。
学生時代には「いずし」で起きる食中毒だと習いましたが、大きな被害が出たのは「からしれんこん」です。
空気に触れないように発酵させたり、食品を真空パックすることが、ボツリヌス菌を増殖させやすいようです。

乳児では、比較的少量の菌を摂取しても、未成熟な腸管内で菌が増え、それが毒素を出して発症します。
80年代にハチミツが原因の事例が相次ぎ、「乳児にハチミツを与えてはいけない」ことが常識になりました。
おかげで90年代の乳児ボツリヌス症のほとんどが、ハチミツ以外の食品によって起きています。

それから20年以上を経て、世の中全体のハチミツに対する警戒が、緩みつつあるのかもしれません。
いまの若い親には、「乳児にハチミツを与えてはいけない」ことが、常識ではなくなりつつあるのでしょうか。

「クックパッド」で「離乳食 はちみつ」で検索したら、147件のレシピが出てくると、ネットで話題です。
実際には、1歳以上限定とする注意書きも見受けますが、それにしても、誤解を招きかねない情報です。

死亡するのは稀な疾患ですが、今回の赤ちゃんは、ハチミツを食べなければ死なずに済んだことは確かです。
この件は詳細に報じて、「乳児にハチミツを与えてはいけない」ことを、世の常識にしなければなりません。

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マイコプラズマの薬
- 2017/03/14(Tue) -
「オゼックス」という抗菌剤が、小児のマイコプラズマ肺炎に対して処方できるようになりました。

オゼックスは、ニューキロノン系という種類の抗菌剤の中では、7年前に初めて小児用が認められた薬です。
ただし副作用を考慮して、その適応は「肺炎、コレラ、中耳炎、炭疽」に限られていました。
しかもその肺炎は、肺炎球菌やインフルエンザ菌による肺炎などに限定されていました。

マイコプラズマ肺炎にも効くことはわかっていましたが、先月までは正式には使えなかったわけです。

従来、マイコプラズマ感染(肺炎)に対しては、マクロライド系という抗生剤が第一選択でした。
いま「抗菌剤」と「抗生剤」を、あえて書き分けましたが、今回その話題は掘り下げないでおきます。

ともかく、上記以外の疾病に対してオゼックスをを使うことは禁じられていたわけです。
実際の臨床では、治りの悪い中耳炎に対して、よく使われています。

ところが、昨年流行したマイコプラズマ肺炎には、マクロライド系がほとんど効きませんでした。
マクロライド系ではまったく下熱しないし咳もひどいお子さんに、切り札としてオゼックスを処方しました。
すると、ウソのように下熱して、たちどころに病状が改善するということを、昨年何度も経験しました。

ただしその際、レセプト上の病名は中耳炎です。マイコプラズマ肺炎にオゼックスは使えないからです。
もちろん、まったく中耳炎所見がなかったわけではない症例を選んだと考えてください(苦しい言い訳)。

そんな言い訳も、今月から不要になりました。今後は堂々と、マイコプラズマにオゼックスが使えます。
ただし逆に、軽い中耳炎などにいちいちオゼックスを使うのは、避けなければなりません。
安易に使っていると、やがてそのうちオゼックスが効かないマイコプラズマが出てくるでしょう。
このようにしてわれわれ医者(あるいは人類)と病原体は、いたちごっこを続けているのです。

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はなみず
- 2017/03/12(Sun) -
1週間ぐらい前から、花粉症の人が急増しています。
その多くが、ヒノキアレルギーの方です。西日本は今月、ヒノキ花粉が悲惨なほど飛散しているそうです。
花粉症のおもな症状は鼻水ですが、鼻づまりや目の痒みや、咳が出たり頭痛を起こしたりもします。

「鼻水」というのは、鼻孔から出てくる粘液(鼻汁)のことですが、単に「はな」とも言いますね。

しかし「はなが出る」を「鼻が出る」と書くのは、おそらく間違いです。「鼻から鼻が出る」となるからです。
こういう場合の「はな」には、「洟」という漢字があります。
つまり「みずばな」は「水洟」であり、「あおばな」は「青洟」が、本来の正しい表記なのでしょう。

実際には私は、カルテに「水鼻」や「青鼻」と書いています。「洟」が一般的な漢字ではないからです。
でもたしかに、水鼻は水でできた鼻じゃないし、青鼻は青い鼻梁でもないわけで、違和感はあります。
「赤鼻」との整合性もとれません。
「洟」の意味では「鼻」を使わずに、「水ばな」とか「青ばな」と、かなで書くのが良いのかもしれません。

辞書には「鼻洟(はなみず)」とか「洟水(はなみず)」なんて言葉もありました。念の入った表現です。
さらに、鼻水の意味がある漢字として「泗」の字も見つけました。孔子ゆかりの土地「泗水」の「泗」ですね。
その孔子にちなんで、熊本の合志(こうし)川沿いの村の名前が「泗水」となった話は、前に書きました。
この「泗」は、泣いたときに涙が鼻の中を通って出た鼻水の意味だとか。中国人、表現が細かいです。

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3月9日は脈の日
- 2017/03/09(Thu) -
3月9日は「日本脳卒中協会」が制定した「脈の日」です。3(みゃ)月9(く)日という語呂合わせ。
ではなぜ「脳卒中」協会が「脈の日」か、というのが今日のテーマです。

脳卒中(脳血管障害)は、私が生まれた昭和30年代から50年代半ばまでは、日本人の死因の第1位でした。
その後、がんにトップの座を渡し、やがて心臓病にも抜かれ、数年前には肺炎にも抜かれて今は第4位です。

なんだ、脳卒中って、どんどん減ってる病気なんだ、と思ったとしたら、それは大間違い。
死亡する人が減っただけの話で、脳卒中の患者数自体はとても多いのです。
現在入院治療中の患者数でいえば、脳卒中はがんの1.5倍、心臓病の3.5倍といわれます。
医学の進歩によって死亡率は減りましたが、脳卒中による後遺症のある方は、おおぜいいるということです。

日本人の脳卒中は昔は「脳出血」が多かったのですが、最近は脳血管が詰まって起きる「脳梗塞」が主体です。
脳の血管がより太い部分で詰まった場合ほど、脳細胞の壊死範囲が広いので、より重い後遺症が残ります。
脳内で血栓ができる「脳血栓」よりも、別の場所から大きな血栓が脳に流れてくる「脳塞栓」の方が重症です。

心臓の内部にできた大きな血栓が、脳に流れて詰まる「心原性脳塞栓」は、脳塞栓の中でもとくに重症です。

左心室のように、常に力強く拍動している心臓の内部には、普通は血栓などできません。
左心房もそれなりに拍動しており、大きさや内膜(内面の膜)や弁に異常がなければ、血栓はできません。
血栓ができるのは、左心房の拍動が止まって震えるような動きになる「心房細動」という不整脈のときです。

左心房内で血液がよどむと、小さな血栓ができはじめ、だんだんと成長して大きなかたまりになります。
なんかの拍子に、その血栓が左心室の方に流れると、勢いよく大動脈へ拍出されてしまいます。
それが運悪く頸動脈に向かった場合に、脳血管のどこかに詰まって、脳塞栓が起きてしまいます。

心房細動の治療法については割愛しますが、いま現在、自分が心房細動かどうかは、自分でチェックできます。
手首の動脈の拍動を、反対の手の人差し指と中指と薬指で触れてみて、規則正しいかどうかで判定します。
というわけで、今日は「脈の日」。今日から1週間は「心房細動週間」です。

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抗生剤不使用の啓蒙
- 2017/03/08(Wed) -
厚生労働省の有識者委員会が、軽い風邪や下痢には抗生剤の投与を控えるよう呼びかけたと、報じられました。
抗生剤の投与を控えるべき理由は、おもに次の2つ。
(1)軽い風邪はウイルス感染なのだから、抗生剤は効かない
(2)安易な抗生剤の使用によって、耐性菌が増える恐れがある

しかし一方で、風邪や下痢の患者を診て、それがウイルス感染かどうかを、確実に診断するのは困難です。
ウイルスや細菌を検出するための迅速検査や血液検査を、いちいち行うわけにもいきません。

病状の経過や臨床所見、周囲の流行状況等から、ウイルス感染かどうかを総合的に判断することになります。

そしてウイルス感染が確定的な場合を除いて、すべての感染症は、細菌感染の可能性を考慮しておくべきです。
とくに病状が重い場合には、先手を打って抗生剤を投与するという、リスクマネージメントもあるでしょう。
要は、風邪のように見える病状が、すべてウイルス感染だとたかをくくるべきではないということです。

結局、風邪に抗生剤を処方するかどうかは、その都度、医師が判断すべきものなのです。
そんなことは百も承知の厚労省が、あえて冒頭のような呼びかけをしたのには、理由がありそうです。

医師相手の呼びかけという体裁をとってますが、実は、一般国民への啓蒙ではないかと思うのです。
厚労省は「手引書」をまとめて、今月中に全国の医療機関に配布するそうです。
医療機関はそれを、安易に抗生剤を要求する患者さんに見せる、という使い方もアリなのでしょう。

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インフル悪魔の証明
- 2017/03/05(Sun) -
インフルエンザの検査を「希望」して来院される方が、毎日何人かいます。その目的は、
(1)早期治療のために、インフルエンザかどうかをはっきりさせたい
(2)登園・登校・出勤等のために、インフルエンザではないことを確認したい

病状や状況(家族にインフルエンザがいる等)によっては、(1)の場合、必ずしも検査は必要ありません。
たとえ検査をしなくても、医学的にインフルエンザとの診断がつくことは、しばしばあります。
したがって痛い検査をしなくても、インフルエンザの治療を開始することは可能です。

問題は(2)です。迅速検査キットで「インフルエンザではない」ことを立証するのは、本当は困難です。
とくに発症したばかりの人では、(1)の目的なら検査することがあっても、(2)の目的では検査しません。

そもそも、インフルエンザの検査をするかどうかは、医学的状況等をふまえて医師が決めることです。
誰かが希望するから検査する、というわけではありません。これは、ノロウイルスなどの検査でも同じです。

ところが最近の保育園等では、インフルエンザではないという「悪魔の証明」を求めるケースが目立ちます。
迅速検査の感度は60〜80%程度ですから、インフルエンザを完全に否定することなど、理論的に不可能です。

そのような場合、私は安易に検査をしない方針です。
「検査が陰性=インフルエンザではない」という、誤ったお墨付きだけは、与えたくないからです。

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リレンザで異常行動
- 2017/02/18(Sat) -
インフルエンザ治療薬「リレンザ」を吸入した中学生が、マンション4階から転落死する事故が起きました。
中学生が、自室の窓から飛び降りるという異常な行動を起こしたようです。ご冥福をお祈りします。

従来から「タミフル」が原因かと疑われている異常行動ですが、このようにリレンザ吸入後でも起きるのです。
さらに言うなら、別のインフルエンザ治療薬「イナビル」吸入後でも、同様の事故は報告されています。

私を含む多くの医師は、インフルエンザそのものが、異常行動の原因と考えています。
しかしインフルエンザではすぐにタミフルを処方するので、異常行動がタミフル内服後に起きてしまいます。
タミフルと異常行動は単なる「前後関係」なのに、そこに「因果関係」があるように見えてしまうわけです。

因果関係は立証も否定もできず、厚労省は10年前、10代へのタミフル処方を原則禁止としました。
ところがその後、リレンザやイナビル使用後の事故が報告されても、10代への処方は禁止されていません。
なぜなら、それらまで禁止すると、10代に対して使えるインフルエンザ治療薬がなくなるからです。

インフルエンザ罹患に伴う異常行動については、10年ほど前から、調査研究が行われています。
飛び降りや急な走り出しなどの危険な異常行動について、すべての医療機関が該当例を報告するものです。

異常行動前に使われた治療薬の頻度を見ると、昨シーズンは、イナビル>タミフル>リレンザ、の順でした。
近年、イナビルがタミフルを抜いて第1位です。10代でのタミフルが禁止されたので、当然の結果です。
さらに言うなら、どのインフルエンザ治療薬も使っていなかった異常行動例も、多数報告されています。

タミフルだけを禁止する根拠は、もはや失われているのに、いまだにタミフルだけが禁止され続けています。
禁止を解除すれば、禁止したことが誤りであったことを、厚労省自らが認めることになるからかもしれません。

それはともかく、インフルエンザ罹患後のお子さんは、本当に注意して見守らなければなりません。
24時間監視するわけにもいかないでしょうが、少なくとも、窓が容易に開けられないように工夫すべきです。

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0歳はタミフル5割増
- 2017/01/22(Sun) -
熊本市では、先々週(1/9〜15)の定点医療機関当たりのインフルエンザ患者報告数が、11.04人となりました。
10人を超えたので「注意報」レベルということになります。
ちなみに当院では、同時期に30人を超えるインフルエンザを新たに診断したので、「警報」レベルでした。

インフルエンザの方には、患者さんの意向にもよりますが、抗インフルエンザ薬を処方することになります。
当院では、6歳以上は原則として吸入薬「イナビル」を、6歳未満には「タミフル」を処方しています。

タミフルは、体重に比例した用量で処方します。体重1kg当たり2mgの量を、1日2回で5日間です。
たとえば20kgのお子さんだと、1回量40mgを1日2回(つまり1日量で80mg)、5日分ほど処方します。

それでは体重50kgの子どもは、1回量100mgかというと、そうではありません。
体重がいくら重くても、用量の上限は75mgです。75mgというのは、成人用1カプセルの用量なのです。
これは、体重の重い子どもが、成人よりも多い用量になるという逆転現象を回避するためです。

さて先日、0歳児に対するタミフル投与の「公知申請」が認められたと書きました。
欧米では0歳児への投与が認められているので、そのまま日本にも流用してもよかろう、というわけです。

「そのまま流用」なので、タミフル投与量は欧米式に、体重1kg当たり3mgとなりました。従来の1.5倍です。
これによって、0歳で10kgのお子さんと、1歳で10kgのお子さんとでは、0歳の方が5割増しの用量です。

医療現場では、0歳児にそのような多量のタミフルを投与して大丈夫か、という親御さんも出てきそうです。
しかしこの用量設定は「公知申請」によるものなので、欧米式の投与量をそのまま流用するしかないのです。
日本で治験をしていない以上、0歳児に対する日本独自の用量設定はできないのです。
でも実際の処方医は(私も含めて)、そこらへんを「さじ加減」するでしょうね、きっと。

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インフル医療への勧告
- 2017/01/05(Thu) -
インフルエンザは、昨年から流行が始まったかと思いきや、年末には下火になり、今はチョロチョロです。
ノロウイルスや溶連菌感染の方が、よっぽど目に付きます。マイコプラズマもまだ、くすぶっています。

経験上、他の感染症が流行していると、どういうわけかインフルエンザの流行が抑えられるような気もします。
まさかインフルエンザウイルスが、他の病原体に遠慮しているわけでもないでしょうけど。

米国疾病対策センター(CDC)は、インフルエンザ対策について以下のような勧告をしています。

(1)ワクチンの接種は、生後6カ月以上でワクチンに禁忌でない者すべてに推奨する
(2)2歳以下や65歳以上や慢性病患者などがインフルエンザ様症状を呈したら、直ちに受診すべき
(3)治療の判断は迅速検査結果を待つべきではなく、経験的に判断して治療を遅滞なく行う
(4)可能な限り発症48時間以内に治療を開始するが、48時間を過ぎても無意味ではない

実を言えば、このCDCの勧告と私の診療実態とは、少し異なっています。

以前も書いたように、現行のワクチンはその原理上0歳児には効きにくいので、私はあまりお勧めしてません。
両親がきちんとワクチンを接種していないのに、赤ちゃんにだけ接種するなんてのはナンセンスです。

(2)については異論はありません。受診が早すぎることはありません。しかし(3)と(4)は微妙です。
日本人はとかく、インフルエンザかどうかをハッキリさせたがります。幼稚園や学校の関係があるのでしょう。
迅速検査の的中率は100%じゃないし、病状と状況証拠によってインフルエンザと診断してもよいのです。
ただそのような場合には、インフルエンザ以外の疾病の可能性も、少し考慮しておく必要はあると思います。

発症48時間を過ぎたかどうかなど、誰にもわかりません。発熱=発症とは限らないからです。
初日と2日目が38度の発熱で、3日目から40度に上がるようなインフルエンザにも、よく出くわします。
最初の2日間が風邪で、3日目がインフルエンザの発症と考えれば、発熱4日目からの治療も遅くはありません。
CDC勧告の(4)とは意味合いが異なりますが、病状の重い方には拡大解釈で臨むべきだと思うのです。

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未成年とタミフル
- 2016/12/19(Mon) -
本格的に寒くなってきました。インフルエンザは熊本でも、そろそろ流行期に入りつつあります。

その治療薬「タミフル」が、正式に1歳未満の患者にも処方できるようになったことは、先日書きました。
しかし、10〜19歳への投与は、いまなお原則として禁止されています。
これは、タミフル投与後に異常行動を来した、10代未成年者が頻発したことを受けての措置です。

ただ、タミフルを飲まなくても、インフルエンザに罹ると異常行動が起きることは、よく知られています。
日本は、インフルエンザといえばすぐタミフルを内服してきたので、タミフルが濡れ衣を着せられた形です。
しかし、絶対にタミフルは無実だ、ということを科学的に証明することもできていません。それは困難です。

となると、科学的根拠は乏しくても、疑わしいなら慎重(及び腰)になるのが、厚労省のスタンス。
HPVワクチン(子宮頸がん予防ワクチン)の接種を止めているのと、同じ理屈です。

インフルエンザの異常行動は、タミフルのせいではなく熱せん妄であり、10歳未満でもよく見かけます。

なぜ、10歳未満はタミフルOKで、10歳代はダメで、でも20歳以上ならOKなのか。
それは10代未成年者に、窓から転落したり、外に飛び出して交通事故に遭った事例が多いからです。
10歳代は力が強いので、その異常行動を親が制止できない、というのが理由だと聞いたことがあります。
じゃあ、力持ちの9歳児はどうなの、と言いたくもなりますね。10歳で区切る理由が、非科学的です。
タミフルを飲んだ子は親が見張れと言いますが、もともとインフルエンザの子は、親がちゃんと看るべきです。

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手術の練習と模型
- 2016/12/18(Sun) -
外科医は、長時間労働や訴訟リスクなど厳しい環境のなかで、しかし常に、自己研鑽を続けています。
すなわち、知識の向上と術式の習熟、そして手技(技術)の上達のための努力です。

私が研修医の頃、詰所(通称「タコ部屋」)には、縫合結紮練習用の器具が置いてありました。
暇さえあればそのような模型や、コーヒーカップの取っ手でもなんでも使って、糸結びの練習をしていました。

書物やビデオで勉強し、手術の見学や助手を重ね、ついに執刀医としてデビューする時が来ます。
車の運転に例えるなら、学科教習を受け、教官の車の助手席に何度も乗り、ついに運転席に座るわけです。
自動車学校と異なるのは、最初に運転席に着いたその時から、事故の許されない一般道に出るということです。

しかし、初めての執刀医が、術式の手順もおぼろげなまま、切開や縫合をサクサクこなすのは無理です。
だから実際には、助手を経験している時に、少しだけ縫わせてもらったり、結紮させてもらったりするのです。
教官の車に乗ってるときに、交通量の少ない道で、少しだけ運転させてもらうようなものです。

ところが、実際の手術じゃないけど、執刀の練習をする方法があります。いわゆる「ウェットラボ」です。
たいていは、ブタの臓器を使って練習をします。私もブタの心臓で、何度か弁置換手術などをやりました。
技術的な修練だけでなく、解剖学的な理解を深め、術式の応用を探るためにも有効な方法です。
言ってみれば、路上教習に出る前に、自動車学校の練習コースを運転するようなものでしょうか。

それがいまや、3Dプリンターで出力された人工臓器で、手術の練習ができる時代になりました。
これはちょうど、高精度シミュレーターで運転の練習をするようなものかもしれません。
たとえば、いろんな心疾患の解剖学的構造を模型で再現できるので、あらゆる術式を練習することができます。

さらに凄いのは、手術予定患者のCT画像を元に、その患者の臓器を3Dプリントすることができる点です。
外科医がこれまでは頭の中で構築していた臓器構造を、あらかじめ手にとって見ることができるのです。
そして、その臓器模型で実際に「手術」してみることができるわけで、外科医にとっては夢のような話です。
術式の改良や、新しい術式の開発にもつながるでしょう。これは外科学の大きな転換点になるかもしれません。

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餅つきでノロ感染
- 2016/12/13(Tue) -
ノロウイルス感染による胃腸炎が、大流行中です。
南小国町の保育園の餅つきで、園児や家族ら52人が、ノロウイルスによる食中毒を発症しました。

今年は恒例の餅つき大会を中止する団体等もあり、そこまでしなくても、という意見も出ていました。
しかし、中止した人たちがほっと胸をなで下ろしたであろうほどに、各地でノロの集団感染が発生しています。

当院近隣の保育園・幼稚園などでも、ノロかどうかは確定していませんが、胃腸炎が流行しています。
園で感染し、その後1日か2日遅れで次々に園児の兄弟や親が感染して、当院を受診するケースが目立ちます。
このような感染は、患者の便や嘔吐物に含まれるウイルスが、園内や家庭内で感染を広げていったものです。

一方で、集団内で一気にノロウイルス性胃腸炎が発生するのは、食品(給食や餅つき)を介した感染です。
餅をちぎる時に、あるいは手水を付けるときに、その人の手に付着したウイルスが餅にうつるわけです。
素手では作業せず、手袋を付けて行えばよいのですが、なかなか徹底しにくいのでしょう。

ノロウイルス感染かどうかは、便を検査することになりますが、当院でできるのは「迅速抗原検査」です。
しかし今年は、あまり積極的には検査しない方針です。その理由は、次の通りです。

(1)迅速検査は検出率が低く、今年はとくに迅速検査で陽性反応が出ないノロウイルス感染が多いとされる
(2)もともと園などで流行する胃腸炎の大半はノロウイルス感染であり、状況からほぼ診断の見当は付く
(3)ノロウイルス感染であるかどうかによって、ウイルス性胃腸炎の治療方針が変わることはない
(4)3歳以上65歳未満では、検査に保険が利かず自由診療となるので、混合診療禁止の御法度に触れる

ともかく、適切な治療(重症者には点滴)と感染拡大の防止が重要。餅つき注意(中止しなくても)です。
もちろん次のステップとしては、ワクチンによる予防が待たれます。武田薬品が鋭意開発中のようです。

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3成分配合剤登場
- 2016/11/21(Mon) -
高血圧の患者さんには、2種類以上の降圧剤を処方することが、よくあります。
病状や、年齢や、臓器機能や、合併疾患などを考慮して、複数の系統の降圧剤を組み合わせるわけです。
よく使う組合せがあり、あらかじめ2種類の成分を混合した薬が発売されます。これが「配合剤」です。

ARBという系統の降圧剤と、カルシウム拮抗薬という降圧剤を、1錠にまとめた配合剤が、よく使われます。
たとえば、ARBの「アジルバ」と、カルシウム拮抗薬の「アムロジン」の配合剤が「ザクラス」です。
あるいは、ARBの「ミカルディス」と「アムロジン」の配合剤だと「ミカムロ」です。

配合剤は、錠数が減らせるだけでなく、薬価も元の薬の薬価の合計よりも安く設定されることが多いのです。
おまけに企業努力によって、錠剤の形も小さい。なんだ、良いことずくめじゃん、とは言っておれません。
含有成分は古くても、配合剤は製剤としては新薬なので、ジェネリックがありません。
つまり、ジェネリックを使わせないために、先発薬メーカーが配合剤を発売しているという面もあるのです。

そしてこのたび、日本初の3成分配合の降圧薬が発売されました。その名も「ミカトリオ」。
ARBの「ミカルディス」とカルシウム拮抗薬の「アムロジン」に、利尿剤も加わった「3種混合」降圧剤です。

いやたしかに、よく使う組み合わせですけど、3つまで混ぜますか。トリオですか。
この路線で行くと、さらに4つ5つの成分が混ざっていくかもしれません。次は「ミカルテット」でしょう。

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ヂアミトール
- 2016/09/30(Fri) -
某病院で点滴に混入されていた「異物」あるいは「界面活性剤」の正体は、「ヂアミトール」でした。
「ヂアミトール」は、「ベンザルコニウム塩化物」を主成分とした、病院でよく使われる消毒液の商品名です。

それで思い出したことがあります。以前、「ぢ」で始まる日本語が無い、と書いた話の続きです。
あれは熊本市民病院のICUで、仕事の合間に国語辞典を読んでいたときの、驚愕の発見でした。

「『ぢ』で始まる日本語が無いぞ!」と私たちが興奮して大騒ぎしてたら、看護師が近寄ってきて言うのです。
「ヂアミトールがありますけど」

そういう彼をよく見ると、「ヂアミトール」のボトルを手にしています。よって私たちは叫び直しました。
「『ぢ』で始まる日本語が、『ヂアミトール』以外に無いぞ!」

もちろん、「『ぢ』で始まる日本語が無い」というのは、あくまで一般的な国語辞典レベルの話でしょう。

「ヂアミトール」の「ヂ」からは「di」を連想します。「2」を意味する接頭語です。「3」なら「tri」です。
ついでに言えば、1,4,5,6,7,8,9,10はそれぞれ、mono, tetra, penta, hexa, hepta, octa, nona, decaです。

では、「di」で始まる専門用語の場合は、「ジ」ではなく「ヂ」を使うのかというと、そうでもないようです。
たとえば「di」から始まる化学物質は、カタカナで書くときには「ジ」が使われるのが一般的のようです。
「ニトロ基」が2つ(di)付いた「ベンゼン」は、「ジニトロベンゼン」という具合。

おそらく「ヂアミトール」は商品名だから、国語審議会のルールが及ばず、「ぢ」で始まっても平気なのです。
今回の事件で市民権を得て、唯一の「ぢ」で始まる言葉として「ヂアミトール」が国語辞典に掲載されるかも。

ところで、その「ヂアミトール」は、「アミトール」という物質が2つ(di)結合した構造なのでしょうか。
確認のため、製造元である丸石製薬のサイトを見て驚きました。
「ヂアミトール」の英語表記が「GERMITOL」なのです。「ヂ」を使っておきながら、これはないでしょう。

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麻疹は予防あるのみ
- 2016/08/24(Wed) -
千葉で麻疹(はしか)が発生して、問題になっています。
その発端者として、西宮市在住の19歳の学生が疑われています。その学生の行動は、こうです。
・7/31バリ島へ渡航、8/5帰国
・8/9発熱、8/12顔などに発疹、8/13全身に発疹
・8/14ジャスティン・ビーバーのコンサートに参加(幕張メッセ、2万5千人が参加)
・8/18の血液検査で麻疹と診断(8/19に判明)

この方の問題は2つあります。
(1)高熱と発疹が出ているのに、コンサートに行った
(2)麻しん/風しん混合(MR)ワクチンを接種していなかった

楽しみにしていたコンサートなので、少々体調が悪くても、若者だから無理して参加したのでしょう。
まして自分が麻疹とは思わないだろうし、麻疹だったらどうなの、っていうレベルかもしれません。
発症後もバイトやサークル活動に参加し、都内や鎌倉も訪れているとのこと。

さらに(2)も問題です。中1で接種すべきだったMRワクチン(第3期)を、接種していないからです。
同胞も3人いて、みなMRワクチンは未接種のようです。6人家族のうち4人が、麻疹を発症してしまいました。

かつて麻疹輸出国と揶揄された日本ですが、2008年度からの第2期接種導入によって患者は激減しました。
2008年には11,013人だった患者報告数が、2009年には732人、2010年447人、昨年はわずか35人でした。
WHOは昨年、日本の麻疹排除を認定しました。これもワクチンのおかげなのです。

ところが、その大事なMRワクチンを、いまだに接種したがらない人がいます。
現在、千葉県内で10人以上の麻疹が発生していますが、そのほとんどの方が、MRワクチンは未接種です。
どういう了見なのでしょう。自分が罹るだけの問題ではないのです。他人にうつすから問題なのです。

とくに、まだワクチンの接種対象ではない0歳児は無防備です。千葉のケースでも3人は0歳児でした。

件のジャスティン・ビーバーのコンサートから、今日でちょうど10日。麻疹の潜伏期は10〜12日。
明日ぐらいから、全国で麻疹が発生するのではないかと、医療機関は戦々恐々です。

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手術と異物反応
- 2016/08/17(Wed) -
外科手術では、消化管や血管や骨や筋肉や皮膚を縫合するとき、専用の特殊な縫合糸やワイヤーを使います。
糸だけではありません。手術操作の内容によっては、特殊な布や管なども使います。
それらの人工物は体内に残るので、できるだけ異物反応を起こさないような、特殊な素材で作られています。

しかし、生体がとくに過敏な状態になると、そのような特殊素材に対しても、異物反応を起こしてしまいます。
とくに、その人工物が細菌に感染すると、強い炎症反応が起き、細菌が死滅しても反応だけが続いたりします。

この反応を完全に鎮静化するのは難しく、場合によっては、人工素材を取り除かなければならなくなります。

およそ11年前に私が関与した心臓外科手術後に、胸骨を縫合した糸に対する異物反応が続いた少年がいます。
たびたび傷口が化膿するため、何度も何度も再手術が必要となり、そのたびに入院しなければなりません。
苦しい手術、完治への期待、そして再発による失望を繰り返す年月で、少年期を過ごさせてしまいました。

しかしようやく、ほぼ11年ぶりに、こんどこそ完治できたという感触が得られました。
胸骨を縫合していた、最後の糸が摘出できたからです。本当に良かった、K君よく頑張ってくれたと思います。

30年近く前に私が執刀した男児に、執拗な異物反応が起きたケースも思い出されます。
胸部の傷口の感染がきっかけで、心臓内部の欠損を閉鎖した特殊素材の布にも、感染が起きてしまいました。

ところが、長い長い年月にわたって抗生剤等による治療を続けていたところ、奇跡が起きました。
本来、心臓内部の奥深くに縫着されていたはずの布が、ある日、胸の皮膚の傷口からポロッと出てきたのです。
布がどのようなルートを辿ったのか、わかりません。もはや、生命の神秘というほかありません。

子供の頃、足に刺さったトゲは体に深く入り込み、ついに心臓まで達してしまうと聞いて、怖かったものです。
でも、本来の生体反応はその反対。異物はなるべく体の外に押し出そうと、生体は必死に反応するようです。

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夏風邪
- 2016/08/05(Fri) -
ツクツクボウシの鳴き声を聞いてしまい、少々もの悲しい気分になったのですが、まだまだ夏真っ盛りです。

先月はヘルパンギーナが流行していました。関東地方などでは、いま大流行中とのこと。
症状は高熱と咽頭痛。のどの発疹が特徴的で、すぐ診断がつきます。詳細は、以前のブログをご覧ください。
手足口病やプール熱(アデノウイルス感染)は、意外と少ないですね、いまのところ。

先月後半から流行しているのが、マイコプラズマ感染症です。子どもも大人も罹っています。
かつては、夏季オリンピックの年に流行するので「オリンピック病」と言われていました。
その後は、4年周期が崩れていたのですが、たまたま今年はちょうど、オリンピック病です。
特徴は、長引く高熱と、さらに長引くひどい咳です。熱の割にそこそこ元気です。しかし咳がしつこい。
39度前後の熱が午後から夜に出て、朝から昼までは微熱、というパターンが数日間続きます。
こういう風な、上がったり下がったりするパターンの熱を「弛張熱(しちょうねつ)」といいます。
咽頭ぬぐい液の迅速検査で診断が確定しますが、周囲での流行と本人の症状で、だいたい判断はつきます。

おたふくかぜも、5年半ぶりに流行しています。
かつて実施されていたMMRワクチンの接種が、副反応が原因で中止された後、数年周期で流行しています。
MMR=M麻疹+Mおたふく+R風疹の混合ワクチンですが、いまは、おたふくが外されてMRワクチンです。
おたふくかぜは、難聴の原因となります。毎年約1000人の子どもが難聴になっており、治りません。
ワクチンの定期接種でおたふくかぜを予防していないのは、世界でもアフリカ諸国と北朝鮮と日本ぐらいです。
任意接種を受ける方は増えていますが、集団防衛のためにも、定期接種がぜひとも必要です。

と、書いてきましたが、今いちばん多いのは、原因の特定できない高熱ですね。
39度以上の高熱、中等度の咽頭炎、咳は比較的軽く、熱の割に全身状態は良好。俗に言う「夏風邪」です。

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超迅速代謝者
- 2016/06/25(Sat) -
飲酒して、血中アルコール濃度が上昇すると、「酩酊状態(いい感じ)」になりますね。
そのアルコールが肝臓の酵素ADHにより代謝され、アセトアルデヒドに変わると「不快な酔い」になります。
アセトアルデヒドはALDHによって代謝され、さらに分解されて、最終的には水と二酸化炭素になります。

酵素のこまかい種類は抜きにして、ここは話を単純化し、ADH(A)とALDH(B)の個人差を考えてみます。
(1)Aが強く、Bも強い人:ガンガン飲めて、あまり酔わない
(2)Aが弱く、Bは強い人:酔っ払うけど、楽しく飲める
(3)Aが強く、Bは弱い人:飲んでも酔えず、気分が悪いばかり
(4)Aが弱く、Bも弱い人:飲み始めは楽しく、あとで悪酔いする

医薬品も、それぞれ特定の酵素によって体内で代謝(処理)され、やがて排出されます。
酵素の働きは、アルコールと同様に個人差があります。しばしば遺伝的素因が影響します。

なかには、特定の代謝酵素の力(活性)が異常に高い人がいます。これを「超迅速代謝者」といいます。
医薬品の成分Xが、ある酵素で代謝されてYになる場合、超迅速代謝者ではXがすぐにYに変わってしまいます。
そのため薬物Xとしての作用はきわめて小さくなり、そのかわりに薬物Yの作用が強く現れたりします。

よく問題になるのが、咳止めの成分「コデイン」です。市販の「アネトン」などにも含まれています。
これを「超迅速代謝者」が内服すると、コデインの多くがモルヒネに変わり、副作用が出やすくなります。

午後5時の時報とともに速攻で退社する人は「超迅速退社者」でしょうか。思いついたので書きました。

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エコノミークラス症候群
- 2016/04/27(Wed) -
避難生活、とくに車中泊を続けている人の間で、いま問題となっているのが「エコノミークラス症候群」。
これは下肢、とくに下腿の深いところの静脈(深部静脈)の中に、血栓(血のかたまり)ができる病気です。
その血栓が血流に乗って移動し、大静脈→右心房→右心室を経て肺動脈に詰まると、肺塞栓を引き起こします。
血栓が下肢にある間の症状は、下肢の腫れや痛みですが、肺塞栓を起こすと、胸痛や呼吸困難をきたします。

エコノミークラス症候群(正式には「深部静脈血栓症」)の原因は、おもに次の2つ。
(1)長時間同じ姿勢(とくに下肢を屈曲した状態)
(2)水分摂取不足

車中泊はまさに典型的な(1)だし、飲料水不足やトイレが不便な環境であれば(2)も重なってきます。
当院の患者さんの中には、いまだに車中泊をしている人もいます。余震の恐怖から、家で寝られないのです。

「血液サラサラの薬を飲んでるから大丈夫です」と言う方がいますが、それはたいてい、間違っています。

脳梗塞や心筋梗塞などの心配のある方が飲んでいるのは、「バイアスピリン」などの「抗血小板薬」です。
動脈硬化で血管壁が傷んだ場所に、血小板が集まって血栓を作り、動脈が詰まってしまうのを防ぐ薬です。

一方で、下肢の静脈とか、心房細動のときの左心房など、血液がよどむ場所にできる血栓は、また別物。
血液凝固因子が活性化して血液が凝固するので、治療薬は「ワーファリン」などの「抗凝固薬」です。

バイアスピリンを飲んでいても、エコノミークラス症候群を予防することはできません。ご注意ください。
足を定期的に動かし、可能なら高い位置に上げ、できれば時々歩き、水分は十分に摂る。それしかありません。

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がん免疫療法
- 2016/04/12(Tue) -
小野薬品の、がん免疫療法薬「オプジーボ」は、昨年末から適応が広がって、使用患者が急増中とのこと。
「オプジーボ」は商品名です。一般名(薬品名)は「ニボルマブ(Nivolumab)」。
副作用問題が出てはいますが、画期的な新薬であることは間違いありません。では、どんな薬なのか簡単に。

まず、通常の免疫反応には、自然のブレーキが存在します。過剰な免疫反応を抑制するための仕組みです。
そのブレーキのスイッチが「免疫チェックポイント」と呼ばれる分子で、リンパ球の表面にあります。
がん細胞は、このスイッチを操作して、リンパ球からの攻撃を免れます。これを「免疫逃避機構」といいます。

そこで、がん細胞がブレーキ操作をする前に、そのスイッチを塞いで押せなくしてしまえ、と考えたわけです。
このように、ある分子に的を絞って作用する医薬品のことを「分子標的治療薬」といいます。
とくにそれが、標的分子という「抗原」に結合する「抗体」である場合、「抗体医薬品」と呼びます。

遺伝子組換えによって、特異性の高い抗体「モノクローナル抗体(Monoclonal Antibody)」が作られます。
このような医薬品の名称は、語尾に “Monoclonal AntiBody” からとった “mab(マブ)” が付きます。
「マブ」が付く薬はみな、「モノクローナル抗体医薬品」というわけです。

小児領域でなじみのある「マブ仲間(マブダチ)」は、「パリビズマブ」でしょう。商品名「シナジス」。
早産児などでは、RSウイルス感染予防のために、流行期に月に1回、シナジスを筋肉注射します。
けっこう高額な薬です。体重に比例して用量が増え、6.6キロのお子さんだと、薬価は月に約15万円!
保険適応ですが、乳幼児医療費の助成がなければ、なかなか大変な金額です。

ちなみにオプジーボは、もっと高い。70キロだと1回約150万円。2週間毎に点滴するので、年に3,900万円!
対象患者は数万人といいますから、個人負担もさることながら、医療保険制度にも影響は大きいでしょう。
その意味で、オプジーボの最大の「副作用」は、「経済毒性」とも言われているようです。

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肝心か、肝腎か
- 2016/03/28(Mon) -
「心臓外科」「脳外科」「肝臓外科」と並べてみると、テレビドラマで描きやすいのは、心臓外科でしょう。
なにしろ心臓は、「見た目」に動く臓器なので、手術が成功したシーンを表現しやすいですしね。

しかし、術後に心拍動が再開したからと言って、それは術後経過の初期段階の、そのまた入口に過ぎません。
問題はその後、安定して力強く拍動し続けてくれるかですが、まあそのことは、今回はあまり言いません。

考えてみると心臓は、血液を全身に送り出してるだけなのに、人体の最重要臓器のような顔をしています。
それはそれで重要だし、心臓にはほかの働きもあるのですが、ほかと比べれば比較的シンプルな臓器です。

最も複雑で高度な臓器は脳でしょう。ただ映像的に、脳外科の手術シーンは、ドラマで描きにくいのが難点。

心配したり、心が躍ったり、心を痛めたりしますが、心臓は脳のように思考する場所ではありません。
なのに「心」が心臓に宿ると感じるのは、感情の起伏が自律神経を介して、心拍動に影響するからでしょうね。
その結果、心臓がドキッと(動悸が)したりして、心臓の動きと心の動きが、リンクして感じるわけです。

「肝心」という言葉は「肝腎」とも書きます。それから考えると、心臓と腎臓は置き換え可能な立場です。
「肝心」と「肝腎」に共通する肝臓こそが、心臓や腎臓よりも格上と、位置づけられていたのかもしれません。

古来より、肝臓は人間の感情の根源と考えられています。英語の “liver” は生命 “life” と同語源だとか。

それだけ重要だからでしょうか、肝臓は、他の臓器にはない「再生力」を与えられています。
肝臓だけは、いくら切除しても、まるでプラナリアのように、元通りの大きさに戻ります。

ギリシャ神話の「プロメテウス」は、火を盗んだために、鷲に肝臓を食べられるという罰を与えられました。
しかし翌日には肝臓が再生するものだから、毎日毎日、三万年間食べられ続けたという、まあ気の長い話です。
ギリシャ神話が作られた昔から、肝臓の驚異的な再生能力が知られていた、ということにも驚きます。

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