細胞培養ワクチン
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- 2013/04/26(Fri) -
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中国の「鳥インフルエンザ」が拡大しています。世界的な大流行(パンデミック)が心配です。
その対策のひとつとして、日本ではインフルエンザワクチンの製造方法が大きく変わろうとしています。 インフルエンザワクチンの一般的な製造工程は、ざっと次の通りです。 ウイルス株(型)選定 → 製造(培養→分離→化学処理) → 自家検定 → 国家検定 → 出荷 最短で半年以上、国民全員分を製造するには1年半以上かかるそうです。「培養」が手間なのです。 そこで、パンデミックワクチンを迅速に製造するための切り札が「細胞培養法」です。 従来の製造法である「鶏卵培養法」と比較してみましょう(久々に長いです)。 (1)鶏卵培養法 現時点で、国内メーカーが製造・販売しているインフルエンザワクチンは、すべてこれです。 ワクチン専用に飼育されている、生後半年から1年以内の若鶏が生んだ、10〜12日目の有精卵を使います。 卵の中の「尿膜」という袋にウイルスを接種し、3日間培養して増殖させ、その後化学処理等を行います。 数千万個以上の膨大な数の鶏卵が必要であり、鶏を育てるための期間と飼育設備も必要です。 鳥インフルエンザのパンデミックの際には、鶏の移動が制限されて、製造に支障が出る可能性があります。 (2)細胞培養法 大きな容器に、大量の細胞液とインフルエンザウイルスを混ぜ込んで培養する、実に単純な大量生産法です。 使用する細胞では「Vero細胞」が有名。これは「アフリカミドリザル」の腎臓細胞に由来するものです。 イヌ腎臓細胞由来の「MDCK細胞」や、アヒル由来の「EB66細胞」も使われます。 2009年の新型インフルエンザ騒ぎの時に輸入したワクチンの片方は、MDCK細胞で作ったものでした。 インフルエンザ以外では、現在使われている日本脳炎ワクチンが、Vero細胞培養によって製造されています。 (3)遺伝子組換え インフルエンザウイルスを用いない方法です。使うのは、ウイルス抗原の遺伝子情報だけ。 この情報を「バキュロウイルス」に組み込んだ後に、それを昆虫(蛾)由来の細胞に感染させて培養します。 あとは(2)と同様なので、広い意味では「細胞培養法」に入ります。 インフルエンザウイルスそのものは使わないので、安全性が高いそうです。「蛾」が気になりますけどね。 子宮頸がんワクチン(HPVワクチン)のうちの「サーバリックス」も、この方法で製造されています。 2011年に厚労省は「細胞培養法ワクチン実生産施設整備等推進事業」に4社を採択し、助成を決めました。 選ばれたのは、武田薬品、化血研、北里第一三共ワクチン、阪大微研の4社。助成総額は1,000億円。 武田薬品(Vero細胞)と化血研(EB66細胞)の開発が進んでおり、本年度からの量産が期待されます。 一方、第一三共の開発は遅れ、阪大微研は撤退を決めました。両社MDCK細胞なのは偶然か。 遺伝子組換えによってワクチンを製造しているのは「UMNファーマ」という、秋田のベンチャー企業です。 厚労省の採択には漏れましたが、アステラスと共同開発を進め、IHIの出資も受けて勢いづいています。 ノロウイルスやロタウイルスのワクチンも、同じ手法による製造を開発中とのこと。 こういうメーカーって、応援したくなりますね。ちょうど、大動物と互角に闘う昆虫のイメージです。 阪大微研が国に返還した240億円を、UMNファーマに回してやってはどうでしょうか、厚労省の方。
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